こいごころ 中学3年の春。 席が偶然隣になったことが始まりだった。 「よろしく。僕は不二周助。」 「・・・知ってます。」 「へぇ・・・それは嬉しいな。でもどうして知ってるの?」 「だってすっごい有名じゃないですか。」 「そうなんだ・・・」 「そんな人ごとみたいに言わないで下さい。」 「クス。面白いね。君。」 「そうですか。」 「名前は?」 「あ・・・私は」 「さん。でしょ?」 「・・・知ってるならきかないでください。ていうかそっちこそ、どうして知ってるんですか?」 「どうしてだろうね。」 「・・・答えになってません。」 「きっとそのうちわかるよ。」 「・・・はぁ・・・?」 それから私たちは不二の友達の菊丸を交えて、趣味は全然違うのに、何故か仲良くなった。 もしかしたら、クラスで孤立してる私を心配してくれてたのかもしれない。 でも、不二達はテニス部のレギュラーで、ファンも多い。 おまけに元々人付き合いが嫌いで友達がほとんど居なくて、 たいして美人でもない私がそんな二人と一緒にいた。 だからよけい、妬まれることも多かった。 靴の中に泥を詰め込まれたり。 物がなくなったり、傷つけられたり。 殴られそうにもなったり。 だけどその度に、不二と菊は私を助けてくれた。 「・・・ありがと。」 「なんなんだにゃ!アイツら! なにも罪のないをよってたかっていじめて・・・!」 「いいよ、菊。 私がふたりと仲良くしてるのが悪いんだし、もう、ふたりとは・・・」 「付き合わないって言いたいの?」 いつもは細めている瞳をはっきり開いて、哀しそうに不二が言ったのをはっきり覚えてる。 「・・・・・・・・・」 私が小さく頷くと、菊も哀しそうな顔をしてあたしの肩を掴んだ。 「そんなこと言うな!俺達は、楽しくてといるんだ! が好きだから、一緒にいるんだ! 俺達が誰と付き合おうと勝手だし、が誰と付き合おうと勝手! ましてやクラス中でを除け者にしてるヤツに、あれこれ言われる筋合いはない!」 いつもの天真爛漫な菊とは違って、すごく真剣な表情で、今にも泣きそうだった。 「・・・菊・・・」 「。」 今度は不二が、静かに言った。 「英二の言うとおり、僕たちは君と一緒にいたいから一緒にいるだけ。 それでもしが嫌だって言うなら強制はしないけど、 僕たちはこれからもずっと、と一緒にいたいって思ってるんだ。」 「・・・不二・・・」 優しい二人の言葉に、柄にもなく泣きそうになる。 「・・・、辛かったら、言って。 こうやっていじめられてたこと、隠さないで言って。」 「そうだよ。俺達の間に隠し事なんてするなよ。」 「・・・・・・・」 こらえきれなくて、瞼から熱いモノが溢れ出てきた。 不二と菊は、二人で私を抱きしめてくれた。 「ー。泣くなー。」 「英二、今は泣かせてあげよう。」 「・・・あ・・・りがと・・・・ふたりとも・・・・ありがとう・・・っ」 この二人と友達になれて、ホントによかったと思った。 ずっとこのままでいたいと、思った。 でも・・・私は、気付いてしまった。 自分の、きもちに。 中学3年の秋。 「、図々しいよ。」 「菊丸くんにベタベタしちゃってさ!」 「アツイねー。」 「ちょっとは頭冷やしたら?」 菊のファンのコ達に旧体育館の体育倉庫に閉じこめられた。 菊も不二も部活で、私が日直で残っている時の出来事だった。 誰も使っていない旧体育館の体育倉庫。 当然誰も来るはずがない。 鍵はがっちり閉められてて、さらになにもないコンクリート造りの倉庫は冷える。 ・・・寒い。 何時間か経ったが、冬も近いの倉庫内の気温は下がる一方で、身体ががくがくと震えてきた。 こんなの・・・私らしくない・・・ 寒い・・・ 寒い・・・ 寒い・・・ 寒い・・・ 誰かに助けを求めるなんて・・・私らしくない・・・ 助けて・・・ 助けて・・・ 助けて・・・ 助けて・・・ でも・・・でも・・・・ 助けて、 不二 ・・・ 自然と出てきた気持ちだった。 どうして、不二・・・? そんな時・・・ ガチャン! 固く閉じられた扉が開いた。 「ふじ・・・?」 ・・・ではなく、菊が、飛び込んできた。 「・・・き・・・・く・・・?」 寒さで震える唇を必死で動かして、名前を呼ぶ。 身体は、もうガチガチで動かない。 「っ、大丈夫!?」 「・・・へ・・き。」 「・・・唇が青い・・・温めなくちゃ・・・・・保健室に・・・!」 そう言うと菊は私を抱きかかえた。 いわゆるお姫様だっこである。 「き、きく・・・いいよ・・・恥ずかし・・・」 「よくない!歩けないのに意地張るなっ!」 「意地なんか・・・張って・・・」 ない。 と言いかけた時、目の前が暗くなり、唇に柔らかいものを感じた。 ・・・菊の香りがする。 「・・・・・・・・・」 最初はなにが起こったかわからなかった。 しばらく経つと、ようやく、菊にキスされたんだ、と理解出来た。 「・・・き・・・・」 「俺、が好きだよ。」 寒さで感覚がなくなっていても、顔だけが赤くなるのはわかった。 そんな熱を帯びた頬に、微かな冷たさを感じた。 ・・・・・・菊が、泣いてる。 「自分のせいで、好きな子をこんな目に遭わせるなんて、自分が許せない。」 それでも菊は、止まることなく私を保健室まで連れて行って、ベッドに寝かせてくれた。 「ストーブのスイッチ・・・どこだろ・・・」 「きく・・・いいよ、ぶかつ・・・もどって・・・」 「何言ってんだよ!こんな弱ったをほっとけるわけない!」 「、大丈夫!?」 不二が、息を切らして来た。 「・・・ふじ・・・・・」 「・・・英二、もっと温めなきゃ!」 「ストーブのスイッチがわからないんだにゃ・・・」 「・・・・・・・・」 すると不二は黙ってストーブの横にしゃがみ込み、スイッチらしきモノを回し、 の方へ歩み寄ってきた。 「寒かったよね・・・」 そう言うとベッドの横へ椅子を持ってきて座り、私の片手をしっかり握った。 不二の熱が伝わって、あったかくて、気持ちいい。 「・・・ありがとう・・・」 「どういたしまして。」 にっこりと、いつもの優しい笑顔を返してくれる不二。 「・・・・・・・・」 思わず来たお助け人に、菊が少し悔しそうだったのは、気付かなかった。 そして、助けてもらって安心したのか、ベッドに入って暖まったのか、眠気に襲われた。 しばらくして、周りは暗いけど、不二と菊の話し声が聞こえてきた。 「・・・不二は、が好きなのか?」 「不二 も じゃないの?」 「ど・・・どういうこと・・・」 「英二も、が好きなんでしょ?」 「・・・・・・それは・・・」 「僕、見ちゃったんだよね。さっき英二がにキスしてたトコ。」 「・・・・・・・・・・」 菊が黙る。 ・・・きっと、真っ赤になってたんだろう。 「図星だね。そうだよ。僕もが好きだよ。」 ! 驚いた。 菊だけじゃなくて、不二まで・・・? 「・・・いくら菊でも、別の男に、渡したくない。」 「それは俺だって同じだ!」 険悪なムードが漂う。 ・・・私は、気付かれたら今までの関係が崩れてしまいそうで、ずっと、寝たふりをしていた。 ガラッ するとそこに、担任の先生が来た。 「お、菊丸。ここにいたか。ちょっと、話があるからいいか。」 「・・・あ。はい・・・。」 菊は残念そうに返事をして、そっと、保健室を出ていった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 不二が囁く声がしたと思ったら、ベッドが軋んだ。 蛍光灯からの光で瞼に流れる血液が透けて赤かった世界が、急に光を遮られ暗くなる。 冷えた唇に、熱を感じた。 「・・・・・・・・・」 始めは軽く触れるだけだった。 でも、だんだん、強く押し付けられて、最後は口内まで不二が押し入ってきた。 「・・・ん・・・・・」 長くて、息苦しくて・・・ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 やっと解放されたと思ったら、今度は首筋に口付けられる。 「・・・やっ!」 急な刺激に思わず声を出してしまった。 不二は驚いて体を起こす。 「・・・・・・・・・起きてたの?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 視線を不二から逸らし、軽く頷く。 「・・・・・さっきの話、聴いてた?」 やっぱり、軽く頷く。 「そっか。じゃあ話は早いね。」 そう言うと不二は私を抱きしめてきた。 「僕は、が好きだよ。」 「ふ、不二・・・」 「英二にも・・・誰にも、渡したくない。 初めて話した時、にどうして名前知ってるのかってきかれたよね。 そうしたら、そのうちわかるよって言ったでしょ?覚えてる?」 ・・・そういえば、そんなこともあった。 そっと、頷く。 「・・・入学した時、一目惚れしたんだ。 孤立してたけど、なんか、すごく、惹かれた。理由はわからないんだけど・・・ それで、名前だけでも知っておきたいって思って・・・」 動悸がすごい。 顔が赤くなるのがはっきりわかる。 ・・・さっき、自然と不二を呼んだのは、どうしてだろう、と思った。 でも、今、その理由がはっきりした。 私は、不二が好きなんだ。 そう思ったら、手が自然と不二の背中に回った。 「・・・・・・」 「・・・私も、不二が好き。」 不二の私を抱きしめる力が強くなった。 「・・・・・・がいなくなったってわかって・・・すごく、心配した・・・」 「不二・・・」 「・・・よかった・・・」 ・・・不二が、いつもと違った。 泣いてた。 私のために泣いてくれてるの・・・? そんな不二がすごく嬉しくて、愛しく思えて、私の唇が不二のそれに、触れた。 でも、幸せの真っ只中にいた私たちは、その時保健室に菊が戻っていた事を知らなかった。 次の日からは普通で。 ただちょっと違ったのは、私と不二との間にある空気だった。 誰にも気付かれないくらいの変化だったけど、私たちにははっきりわかった。 でも、それに気付いていたのがひとり居た。 菊。 あの出来事から数日後。 菊と一緒に引き受けた美化委員の仕事で、裏庭の掃除をしていた時だった。 「ねぇ・・・。」 「なに?」 「・・・返事・・・きかせてよ。」 「・・・・・・・・な・・・なんの・・・?」 どきっとした。 私が不二のことを好きで、不二が私のことを好きで。 それが嬉しくて、幸せで、菊も普通だったから、菊に告白されたことを忘れかけていた。 ・・・私は、最低だ。 「告白の。」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・は、俺のこと、どう思ってる?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・私・・・は・・・・」 「・・・不二が好き。なんだろ?」 「えっ?」 意外な言葉に、俯いてた顔を上げた。 そうしたら正面にいつもの菊の明るい笑顔があって 「へっへーん!この間保健室できいちゃったんだ! はー、不二が好きなんだろ? で、不二も、が好きなんだろ? 両想いじゃん?おっめでと〜!! ずっと黙ってたなんてひでーよ〜!俺達親友だろー?」 ・・・いつもの、じゃない。 笑顔はいつものだけど、無理してる。 無理して笑顔作ってる。 わかる。 だって、私たちは 親友 だもん・・・ 「・・・きく・・・・・・」 「なっ・・・なに泣いてんだよ〜!らしくないぞ〜!」 「・・・きく・・・きく・・・・」 「〜・・・泣くなよ〜・・・」 「・・・ばかー・・・ばかばかばかー・・・」 菊に抱きついて、泣き出す。 こんな菊を見て、泣き出さずにはいられない・・・ 「・・・」 「なに無理してんのよ・・・私最低な女なんだからもっと怒ってよ・・・殴ってよ・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・菊!」 「・・・は、最低じゃないよ。」 「・・・うそ、最低よ。だって・・・」 菊が抱きしめてくる。 「・・・最低じゃない。最高!」 「・・・・・・・・・・」 「・・・だって、こうやって俺のために泣いてくれてるだろ? それだけで、俺は十分!」 「・・・菊・・・」 「ホントはさ、もっと前から気付いてた!へへ・・・ 、不二と話してる時が一番楽しそうだったし・・・」 「・・・・・・・・・・・・・」 「俺は大丈夫!そんなヤワな男じゃないから!無理もしてない!」 「きく・・・」 「ホラ、俺なんかに抱きついてたら俺が不二に怒られる〜!」 「菊・・・」 「・・・ホントに。が幸せなら、俺はそれでいいよ。」 「菊・・・」 「だから泣くな〜〜〜」 そう言うと菊は学ランの袖で私の顔をごしごし拭いた。 その拭き方は乱暴だったけど、菊らしさが戻ってた。 「き、菊・・・イタイ・・・」 「うわ!ごめん!!あ!そうだ!」 「・・・・・・?」 「あのさ、はこれからも俺のこと親友として見てくれる?」 「・・・あ・・・当たり前じゃない!それはこっちが言いたい・・・」 「じゃあこうしよう!不二と絶対別れないこと!それが俺と親友でいる条件! 別れたら絶交だー!」 「菊・・・・・・」 涙がまた溢れてくる。 こんな菊見てたら止まらなかった。 「ほら、もう泣きやめ〜!泣いてるなんか、らしくない!」 「菊・・・・・ありがと・・・・」 「・・・・・・」 「ホントに、ありがと・・・大好きだよ・・・」 「・・・・・・・・す、好きなんて言う相手が違うにゃ! さ、部活行かないと!は、どうする?」 「・・・部活、見る。」 「そっか。じゃあ行こー!ゴーゴー!」 ・・・菊は、優しい。 そんな菊に好かれた私は、幸せ者だ。 菊、ありがと。 ほんとにほんとに、大好き。 next -------------------------------------------------- あれっ。 おかしいな・・・不二さんモノのはずが何故かエージが活躍してます。 てかエージファンの方、ホント申し訳ないです・・・ こんな扱いしちゃって・・・ おまけになーがーいー。 なんか話が出来過ぎな上になーがーいー。 ・・・だめぢゃん。(沈 なんか続くっぽいです。 いや、このまま英二をほっとけないんで・・・! スイマセン・・・ 続きは男テニマネージャーのヒロインが、英二を慰めます。 英二泣く。 ヒロインも、泣く。 そして英二が似非。(ダメじゃん もしよろしければ続きも付き合ってやって下さい。 ここまで読んで下さって、ありがとうございました。 020824 * 続きを読まない方はこのままウィンドウを閉じて下さい * |