あやつり人形








今はもう使われていない、旧校舎の図書室。
使われていないとはいっても、新校舎の図書室に収まりきらない書籍で溢れかえっていた。
図書委員だけが来ることの出来る、特別な場所。
それでも、古くて埃をかぶったこの部屋に来る人はいなくて。
誰も、こない。
私の、お気に入りの場所。

放課後は、木枠の古い窓から赤い光が差して。
空中に舞っているきたないはずの埃が、きらきら光ってきれい。
歩くと軋む床とか、今にも崩れ落ちそうな本の山とか。
ぜんぶ、お気に入り。

今日は夕陽がきれいだったから、隅にひとつだけ残っていた古ぼけた椅子を持ってきて
窓辺に座る。
すぐそばにあった本を適当に取って、表紙をめくる。

この時間が、すごい、すきなんだ。

「あれ?さん?」

誰も来るはずがない、聞こえるはずのない声が聞こえて、思わず過剰に反応してしまった。
足元にあった本の山を蹴り飛ばしてしまう。
バサバサと大きな音を立てて崩れ、埃が舞った。

「・・・びっくりした。どうしたの?不二くん」

窓の外に、男の子。
同じクラスの不二くん。
やさしくて、かっこよくて、成績もよくて、スポーツ万能で、
名門と呼ばれるうちの学校のテニス部レギュラーで、
女のコにものすごくもてる人。
私も、少し、気になってはいたけど。
今まで話したこともなかったし、全然全く関わりがなかったから、話しかけられてびっくりした。

「・・・部活は?」

今は部活の時間。
本来はジャージでいるはずの彼が、制服でいるので、きいてみた。

「今日は部活、休みなんだ」
「そうなんだ」

そう言って、本に視線を落とす。
別に、好きだから恥ずかしくて目を合わせられないとかじゃなくて。
不二くんの雰囲気がドキドキして。
なんともいえない。
ふしぎなきもち。

「何読んでるの?」
「わかんない。そこにあったやつ適当にとったの」
「へぇ・・・」

私がちょうど入れるくらいの幅だった扉を、不二くんが入れるくらいまで開けて、入ってきた。
ギィ・・・と不二くんの重みで床が鳴る。
・・・なんか、緊張する。

「じゃあ、僕も読もうかな」

そういうと、床に座った。
私の、真横。
私を、じっと見てる。

「・・・不二くん、本、持ってこないの?」

いつまでたっても動こうとしない不二くんにきいた。
ふっと笑う。

「もう選んでるよ?」
「え?」
「この本。」

ぐいっと腕を引っ張られて。
バランスを崩した私は、不二くんの胸に倒れ込んだ。
倒れた椅子が別の本の山にぶつかって、また、山が崩れた。
気がつくと横から、抱きしめられてて。
不二くんのサラサラの髪が、自分の髪に触れてるのがわかる。
不二くんの吐息が、かかるのがわかる。

「僕の本は、さんかな。」

今の状況についてけない。
言っていることがわからない。
どういうこと?

「いつも、ここで本読んでるよね?」
「なんで知ってるの?」
「ここ、僕のお気に入りスポットでもあるから」
「・・・・・・そうなんだ」

ちょっと、がっかりした。
誰も来ない、自分だけの場所だと思ってたから。
そんな私を察したのか、不二くんはこういった。

「がっかりしたのは僕のほうだよ?
ある日突然、自分だけの場所だと思ってたところに君がきたんだから」
「・・・ごめんなさい。」
「だけどさ。」

今度はさっきのちょっと厳しい顔とうってかわってにっこり笑う。

「あんまり幸せそうにここにいるから、追い出せなくて。
毎日見に来てるうちに、君のことが気になって。
君のことが好きになって。」

あまりにもさらっというから、言ってることを理解するまで時間がかかった。
わかったら最後、一気に身体中があつくなる。
今度はくすっと笑った。

「かわいいね」
「かわいくないよ」

そうかな?という笑顔で満足そうに私を見る。
・・・温厚そうな見かけによらず、この人は、人を操るのがすごいうまい。
私も、操られてしまったみたいだ。

「そ・・・・・・それ、で?今日はとうとう追い出しにきたの?」

平然を装って答えようとする。
でも、だめだ。
顔が赤くなる。
声が裏返ってしまう。

「ちがうちがう。これからはさ、ここをふたりだけのお気に入りの場所にしよう。って。
ここなら、ふたりっきりになれるしね」

ああ。
女のコはみんな、この笑顔にはまってしまったのね。
私も、同じだ。
私の答えがわかっている彼は、勝ち誇ったようにいった。

「この図書室は、僕のモノ。この図書室にあるモノも、全部僕のモノ。」

唇が軽く触れて。

「だから、も僕のモノ。」

そんな笑顔で言われたら、断れるはずがない。


まるで私は、あやつり人形。









fine.
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なんかすごく中途半端です。
終わり方が思いつきませんでした・・・

030519

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