それは本当に。 本当に、偶然の。 出逢いだった。 偶然 「あーおもしろかったーー!」 「そうだなー。」 今日は棋院で研修もないし、暇だったので、オレたちは近くの碁会所巡りをしていた。 「でもさ、伊角さんもいればチーム戦出来たのになー。」 「しょうがないさ。伊角さんも忙しいみたいだし。」 「そーだな。」 今日は、寒い。 いままで暖房のあった暖かい部屋にいたのでさらに寒く感じた。 「さみ〜〜〜っ」 「なあ進藤。」 「あ?」 「ちょっとだけ棋院寄ってかね?ちょうどこの通りまっすぐ行けばそうだし。」 「あー、いいな!そういえば今日院生試験やってるらしいし!」 「あっ。今日だっけ。じゃあちょっと様子見に行くか。」 その時だった。 ・・・まるで、ガラスのようで・・・ 肩の下ぐらいの長さの漆黒の髪が、冷たい風でなびいていた・・・ 栗色の瞳は、やさしくて・・・ 横を通ると 冬なのに花の香りがして・・・ 冬なのに空気が暖かくなった気がした・・・ 「・・・・・・」 「・・・和谷?」 進藤の声を聞いて、我に返った。 「どーしたんだよ。急に立ち止まって。」 「・・・あ、ああ・・・なんでもない。」 「・・・・・・・・・?」 全身が 暖かくなった。 そして 漆黒の髪も、栗色のやさしい瞳も、花の香りも なぜかオレの記憶に焼きついて 離れなかった。 「・・・や・・・わや・・・・・・和谷!!」 奈瀬に呼ばれて驚く。 「なんだよ、奈瀬。びっくりした。」 「なんだよじゃないわよ!さっきからずっと呼んでたのよ!」 こうやって、誰かとハナシをしてても、気がつくと思い出してしまう。 「あー・・・わり・・・で、何?」 「・・・・・・」 「・・・なんだよ。」 「・・・なんか和谷さ、恋してるみたい。」 は? 恋? 「だってなんかココ最近ぼーっとしてるしさー・・・ねぇ進藤。」 「そーだな。なんか・・・あんときから変だよな。」 「え!あんときって!?」 ・・・・・・・・・・・・ ・・・なんか勝手にハナシをしてるけど、どうでもいい。 それより・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・恋? 「あれ。和谷。どこ行くんだ?」 「んー・・・外の空気吸ってくる。」 「ふーん・・・」 ・・・恋? 恋ってアレだよな。 あいつが好き、とか、こいつが好き、とかいうヤツ。 ・・・・・・。 ドンッ! 「きゃっ」 やべっ。ぼーっとしてたらぶつかった・・・ ・・・・・・・・・嘘だろ? 「・・・いたた・・・あ・・・すいません。私ぼーっとしてて・・・」 漆黒の髪、栗色のやさしい瞳、花の香り・・・ 「あ・・・こっちこそ、ごめん。」 思わず声が小さくなる。 「・・・あの、院生の方ですよね?」 「・・・あ、うん。」 「えっと、私今度から仲間入りさせていただくことになりました。 っていいます。」 ・・・マジ? この子が院生? 「・・・あっ、そうなんだ! オレ、和谷。和谷義高。よろしく。」 「和谷さん。へー・・・よろしくお願いしますね。」 太陽のように優しく、明るい笑顔で言われて、眩暈を起こしそうになった。 ・・・なんか、緊張して上手く話せない。 「あっれー、和谷。この人、誰?」 進藤たちが来た。 「あ。院生の方ですか?あの、私、今度から院生になります。です。」 「そーなんだ。オレ、進藤ヒカル。」 「私は奈瀬明日美です。」 ・・・なんでそんなに普通に話せるんだ? は一見おっとりそうだけど、碁に関してはすごく強くて あっという間に2組の上位まで上がってきた。 「・・・14連勝っと・・・」 いつものように対戦表に判を押す。 なんだか最近調子が良くて、勝ち続きだ。 「和谷さんすごーい!!」 いきなりで、かなりびっくりした。 「・・・・・・」 「14連勝ですか!?うわあすごいなあ・・・」 子供のように無邪気な表情でオレの隣に座り対戦表を眺める。 ・・・やばい。 なんか、顔が熱くなってきた。 「私なんかまだ全然だめですねー・・・2組だし。」 「! そんなことないぜ!」 ・・・しまった。つい・・・ 「・・・えっ」 「あ・・・・・・」 「・・・」 「そんなこと、ないぜ。・・・まだ入ってきてそんなに経ってないのにもう2組3位だろ? すごいよは。きっと素質あるぜ。」 「・・・和谷さん・・・」 お互いに、照れてしまった。 赤くなったは、一段と可愛くて ・・・・・・・・・・・・やっぱり、好きなのかもしれない。 そう思った。 「・・・和谷さん・・・ありがとうございます・・・」 そして、オレは、決めた。 が1組に上がってきたら ・・・・・・告白する、と。 でも・・・ 「あれっ。じゃねー?」 見てしまった。 駅前に、が、男といるのを。 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「ちゃん、彼氏いたんだー・・・」 は楽しそうに笑っている。 ・・・笑わないで。 ・・・・・・オレ以外の男の前で、その太陽のような笑顔を見せないで。 そして、とうとう、が1組に来た。 でもオレは、あれからずっとを避けていた。 「・・・・・・和谷さん・・・」 いつも会うと避けていたからか、今日はオレが来るまで待ち伏せしていたようだ。 なんか、いつもと笑顔のかんじが違った。 どこか、寂しげだった。 「・・・・・・・・・和谷さん。」 やっぱり、避けてしまう。 ・・・なんて自分勝手なんだろう。 ・・・彼氏がいたくらいで怒って。 ・・・いた くらい じゃない。 ・・・・・・だってオレは・・・。 「和谷さん!」 とことん無視して行こうとするオレの腕を、が掴んだ。 は目を潤ませて、頬をほんのり赤く染めて、オレをじっと見つめていた。 「・・・なんで・・・無視するんですか? 私、なにか和谷さんの気に障ること、しましたか・・・?」 止めどなく溢れてくる涙を、懸命に手で拭っている。 ・・・・・・・・・・・・・可愛くて。 可愛すぎて。 思わず抱きしめてしまった。 「和谷さん・・・!?」 「もー・・・ダメだ、オレ」 「・・・・・・」 「・・・が好きすぎて、これ以上我慢できない。」 「・・・・・・和谷さん、私」 を抱きしめる力を強くする。 「彼氏がいるのは知ってる。それでも、が好きだから。」 なんだか胸のあたりが、湿ったかんじがした。 「・・・和・・・谷さん。な・・か、言ってるこ・・・変・・・です。」 は締めつけられて動かしにくい手を動かして、自分の目を拭う。 「・・・私、彼氏なんていません。」 ・・・・・・え? 「そんなデマ、どっから聞いたんですか?」 ・・・・・・え?いない?? 「だ・・・だってこの間の日曜日に男と駅に・・・」 「・・・・・・ぷっ・・・・・・あはははははっ!!」 急に笑い出す。 「あははっ!!あー・・・おかしー・・・」 「ち、違うのかよ!?」 「違いますよー。あれは、私の兄です! 大学生で地方に行ってたんですけど、冬休みだからいったん帰ってきたんですよ! それで、私が駅まで迎えに行ったんです。」 ・・・なんか、気が抜けた。 「な、なんだ・・・そうだったのか・・・」 「あははっ。和谷さんて、面白いですねー」 いつもと同じ、太陽のような笑顔を、向けてくる。 可愛くて、愛しくて。 再び、抱きしめる。 「ちょ・・・和谷さん!?」 「・・・彼氏がいないんなら・・・いいよな。 ・・・・・・・・・オレ・・・・・・・・・が好きだ。 初めて街ですれ違ったときから、ずっと・・・。」 「・・・・・・・・・・・・」 ・・・たぶん、いま、オレ めちゃくちゃ顔赤いよな。 「・・・・・・一緒ですね。」 「・・・え?」 「・・・私も、街ですれ違ったときから和谷さんが気になってたんです。 ・・・ここで会えて、ホントに嬉しかった・・・」 細い腕で、オレを抱きしめかえしてくれた。 「・・・私も、和谷さんが好きです。」 「・・・・・・・・・」 オレたちは、自然と、唇を合わせた。 優しい、恋人同士の、キス。 ・・・・・・唇が離れると、ふたりで、笑った。 「ホントに偶然ってすごいな。」 「・・・そうですね。」 「・・・いつまでラブラブモードでいる気かしら。 入っていけないじゃない・・・。」 「・・・くそー・・・和谷のヤツ・・・」 「あれ?進藤、おまえもしかして・・・」 「えっ!?」 「のこと・・・」 「ばっ!違うよ!!全然そんな・・・が好きだなんて!・・・あ。」 ホントに偶然の出逢いだった。 すべて偶然から、オレたちは始まったんだ。 -------------------------------------------------- うわわわわ・・・なんかすっごい変でごめんなさい。 和谷くん語り、一度やってみたかったんですけどね。 見事玉砕。(吐血) ・・・だめだなー・・・なんか強引すぎる気がします。 ・・・精進せねば。 ・・・・・・がんばります。 ではでは!ここまで読んで下さって、どうもありがとうございましたっ。 020406 * このままウィンドウを閉じて下さい * |